人の救えなさ



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活動をはじめて3週間にも満たない、見様見真似で声かけをやっていた時期に平日の夕方、人の少ないショッピングモールで出会った短期大の子と、ついには連絡がつかなくなった。恋人関係を結ぶことをせずに寄り添おうとした、約半年の不思議な間柄だ。

ナンパなんか都市伝説だから、ナンパなんかで誰にも迎えてもらえないという思い込みから来る強烈な孤独感と、拗らせた自意識から絞り出した弱気な声にも彼女は笑顔で対応してくれたことを鮮明に覚えている。夏帆によく似て、細身で幸薄い顔立ちの佇まいでありながらも鬱々しさなど一切押し出さない、バランスのいい一定した陽気さとエネルギーを保っていた。また、手をつないで一緒に歩いているときには鼻歌なんかを歌ったり、セックスの時にこちらを見つめて微笑んだり、独特の魅力的な雰囲気を放っていた。それからヌオーというポケモンが好きらしい。よくわからなかったけれど愛おしかった。

街中で新しく会う女のほとんどが会話の中で問いかけてくる「どんな人がタイプ?」という質問、本当のところは自分の性的な消費欲求を駆り立ててくる容姿の具体例を挙げたいところだが、そんなことをしっかり答えてしまえば嫌悪感はもちろん、仮に相手がその特徴を持たなかったとき、疎外感を抱かせてしまうことがある故に、あえて「一緒にいて楽しい人」と、文字をコピーして貼り付ける感覚で決まって答えているのだが、彼女と過ごしていたときだけは心の底からその答えが出せていたと思う。

彼女の大学生最後の夏、暮れ頃であったか、「先のことまだ決まってないの」と、愚痴的にこぼすようになった。その振る舞い方こそ陽気だが、内実は恐怖でいっぱいだったと思う。高校を卒業してからわずか2年で自らの行く先を見据えなければならないその速度感に齢20の若者が耐えうることが果たしてできようか。そう考えながらも彼女と真摯に向き合うことは決してしなかった。自分と不思議な関係を結びながらの逃避行こそが、彼女の溜まりきった恐怖を蕩尽できると傲慢にも信じていたから。

そして秋、冬と、あんなに陽気だった彼女が涙を流す姿を何度も見るようになった。紅葉を見ては帰り道で涙ぐみ、イルミネーションを見ては帰り道で涙ぐみ、もうずっと泣いていた。でもそれは一時の気持ちの揺れ動きであり、この逃避行こそがすべてだと自分に言い聞かせて、何か新しいアクションを起こすこともなかったし、彼女も何も言ってこなかったから、今のやり方が最適解であることに他ならないと思った。

年を越して少々、彼女に正月の挨拶文を送るもそこから返信はなかった。